スマートコントラクトが上手く機能しなかったら~損害と責任についての考察

スマートコントラクトが上手く機能しなかったら~損害と責任についての考察

スマートコントラクト」は、その本質として、ブロックチェーン上で作動する自立型のコンピュータプログラムで、コントラクトがそれ自身の中でコード化されています。

スマートコントラクトは(従来型のコントラクトのように)契約の規則を定義するだけでなく、そうした規則を自動で施行します。スマートコントラクトは‘if-then’の条件式で稼働し、単一のデータポイントがもっともシンプルなトリガーとなります。スマートコントラクトが現在使われている(もしくは使用に向けて設計されている)分野には以下のような例があります。

・保険を含む、銀行と金融サービス業界
・不動産業界(販売と短期・長期の貸借)
・知的財産(例えば、音楽のライセンスやロイヤリティ) 
・資金調達(イニシャルコインオファーリングを通じて)

 

これらの分野は、何らかの形での資産や価値の譲渡に関連しているという傾向があります。アセットの所有権や担保権は、スマートコントラクトでトークン化を行って取り扱うことのできるもっともシンプルな権利の例です。例えば

・株式市場においてある特定の価格で株式の売却を行う
・流通網を通じて製品の配達をするたびに行われる個々の決済の自動化
・証券信託の必要性をなくすための証券化の規則のコード化

 

スマートコントラクトが上手く機能しなかったら何が起こるのか?

文章化されたコントラクトが「上手く機能」しなかった場合、それはたいてい解釈と原稿の明確性の問題です。この問題はふつう、その時点の当事者の意図を検討することで解決可能です。また、しばしば状況を支持する証人や証拠書類を用意することでの解決も図られます。

一般的に、その後に信頼される第三者(例えば、仲介者、調停者、司法制度)が、当事者たちが、結果について合意に至るか、拘束力のある裁定を行うのを支援します。そうした信頼される第三者は、彼らを支援するための(法律や判例における)法的な体系も持っています。もしコントラクトの条件の制定時に、弁護士に落ち度があったのであれば、その当事者は法的手段を取ることができるかもしれません。

しかし、スマートコントラクトを活用すれば、状況は一変します。コードそれ自体がコントラクトを含んでいるからです。スマートコントラクトが上手く機能しなかった例として、しばしば引用される事案がThe DAOです。

The DAOは「分散型の自治組織」であり、一種のベンチャーキャピタルファンドとして設立され、イーサリアム上のスマートコントラクトによって発効されました。マネジメントは行われず、その代りに参加者が直接、その制定時のスマートコントラクトの条件に従って、プロジェクトへの資金提供に同意を行う仕組みでした。

2016年6月、DAOのスマートコントラクトへの参加者の1人が、コードの特徴を利用して、資金を奪いだしたのです。この「ハック」は、スマートコントラクトの執行力についての2つの相反する見解を生み出しました。

ブロックチェーン原理主義者の見解は、コントラクトに含まれるコードが侵害を認めているのだから、起こった結果はその設計によって正当化される、というものでした。彼らによれば、DAOへの参加者はスマートコントラクトに拘束されることに同意しており、したがってそのコードの下で起こったあらゆる結果に従う必要があるというのです。

もう一方の見解は、参加者はもっと広い意味で、DAOが同意のあったプロジェクトに資金提供を行うためにだけ使われるという点に同意していた、というものです。

将来的にどちらの見解が勝利するかはまだ不透明です。厳密な「コードがコントラクトである」という見解は、コントラクトのコードを、当事者の意図を示す唯一の根拠と考えており、その場合にはコントラクトとその結果は全く同一のものということになります。

こうした環境では、スマートコントラクトに参加したいと考える参加者はみな、プログラムが起動した場合に実際に何が起こるかについての、包括的なアドバイスを求めるべきでしょう。

こうした際のデューデリジェンスには、幅広い専門知識が必要となります。コントラクトには複雑なプログラミングが含まれていて、その分野の専門家でなければ理解は困難なものかもしれません。

実際的な話として、当事者(つまりコントラクトを結んだ当事者や弁護士、スマートコントラクトの開発者のことです)が誰も自身のコントラクトを完全に理解していないということがあり得るので、当事者間での密なコミュニケーションが必要となるでしょう。

 

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